名波の読書記録

読書記録、映画鑑賞記録

「氷点」の読書記録

作中の「社会が複雑になればなるほど、個人の人格も価値も無視される。その人間でなければならない分野はせばめられて行くだけなのだ。」という言葉が印象的だ。夏枝も美貌の妻という価値あるものの括りではなく、一人の人間として見られていれば、心が移ろうこともなかったかもしれない。組織の中で自分をどう見せるかにこだわって、身の周りを整えてしまっては、家族であっても心の通わない集団となってしまう。

人格を認められることは、生きていくうえで必要で、せめて家族の中だけでも信頼のある関係を築くことができれば、生きやすくなるかもしれない。

そして、本作のテーマである原罪について。キリスト教においてアダムとイブが神に背いたことで犯した罪のことで、それ故に子孫である我々も生まれながらにして罪を背負っている。現代社会で考えると、罪とは法律を犯すことではなく、人間の暗い心から生まれる妬みや承認欲求、疑心暗鬼から起こるよくない行いである。そう考えると、清廉潔白に生きることはほとんど不可能に近い。社会の複雑さも相まって、様々な人間の思惑が渦巻き、素直さを保てなくなってきている。いま一度どう生きるのかを立ち止まって考えて、そして過去のよくない行いは改める素直さを持ちたい。